老眼鏡をかけたくない
由紀子さんは、もうすぐ50歳になります。
この頃、スマートフォンの小さな字が読みにくくなってきました。
メッセージを読むとき、つい腕を伸ばして画面を遠ざけている自分に気づきます。本や説明書も、なんとなく読みづらくなりました。
「これって、もしかして老眼?」

そう思いながらも、由紀子さんは老眼鏡を買う気になれませんでした。
由紀子さんは視力が良く、これまでほとんど眼鏡をかけずに生活してきました。だからこそ、老眼鏡が必要になるということを、どこか認めたくなかったのです。
老眼鏡をかけたら、一気に年を取ったような気がしてしまいそうだったからです。それに、メガネが似合わなかったらどうしようという気持ちもありました。
ドラッグストアで老眼鏡のコーナーを見かけても、足を止めることなく通り過ぎてしまいます。
「まだ大丈夫よね」
そう自分に言い聞かせながら、読みづらさを我慢する日が続いていました。
けれど、夕方になると目が疲れてしまい、肩こりまでひどくなることがあります。不便だと思いながらも、どうしても老眼鏡に手を伸ばす気になれませんでした。
小さい字を見間違えてしまった
ある日、由紀子さんは友人と待ち合わせの約束をしていました。
前日にスマートフォンに届いたメッセージを確認し、時間を覚えたつもりでした。ところが当日、待ち合わせ場所に行っても友人の姿がありません。
不思議に思ってスマートフォンを開くと、友人から何度もメッセージが入っていました。最後は「待ったけれど来ないので帰りますね」となっていました。

由紀子さんはびっくりして、改めて前日のメッセージを見直しました。すると、約束の時間を1時間勘違いしていたことに気づきました。
あわてて連絡すると、「どうしたの?待っていたのよ」と言われてしまいました。
由紀子さんは遅れた理由を話しながら、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。
その時ふと「もしかして、ちゃんと見えていなかったのかもしれない」と気付いてハッとしました。
「老眼鏡、買ったほうがいいのかしら?」
姪にブロック解除をしてもらう
数日後、結婚して近くに住んでいる姪の彩乃さんが、由紀子さんの家に遊びに来ました。
お茶を飲みながら何気なく話しているうちに、由紀子さんは先日の出来事を話しました。

「この前ね、約束の時間を見間違えてしまったの。もしかしたら老眼かもしれないけれど、老眼鏡はかけたくないのよね」
彩乃さんは少し首をかしげました。
「おばさん、それって結構不便を感じて困っているんじゃない?」
「そうなの。でもね、まだ必要ないと思いたいのよ」
由紀子さんは正直な気持ちを打ち明けました。
すると彩乃さんが言いました。
「おばさん、もしかしたら良い方法があるかもしれないよ」
「良い方法?」
「ブロック解除って知ってる?」
由紀子さんはきょとんとしました。
「ブロック解除って何?」
彩乃さんは、心のブロックを解除すると、潜在意識が変わり、今まで抵抗を感じていたことに自然と向き合えるようになることがあると、簡単に説明しました。
「やらなきゃと思っているのに、どうしても踏み出せないことってあるでしょう?そういうときに役立つの」
由紀子さんは少し考えました。
「老眼鏡のことも、そうなのかもしれないわね」
彩乃さんはにっこり笑いました。
「最近私、その資格を取ったの。よかったらモニターでやってみる?」
由紀子さんは半信半疑でしたが、
気持ちが軽くなるなら、と思ってやってもらうことにしました。ブロック解除は数分であっけなく終わったので、由紀子さんはびっくりしました。
あんなに抵抗があった老眼鏡なのに
数日後、買い物のついでに立ち寄ったショッピングモールで、ふと眼鏡店の前を通りました。

以前なら素通りしていたはずです。けれどその日は、なぜか店内が気になりました。店の入り口に、明るい色のフレームが並んでいました。
老眼鏡というより、おしゃれなアクセサリーのように見えました。
「ちょっとかけてみるだけなら…」
そう思って手に取り、鏡の前でかけてみました。
驚きました。
手元の文字がくっきりと見えたのです。
スマートフォンの画面も、楽に読めました。
「こんなに違うの?」
由紀子さんは思わず声に出しそうになりました。
それだけでなく、鏡に映った自分の姿も、思ったほど悪くありません。
「老眼鏡って、こんな感じなのね」
そのとき由紀子さんは気づきました。「老眼鏡が嫌だったのではなく、年齢を受け入れることが怖かったのかもしれない」
由紀子さんはその日、お気に入りの一本を選びました。
帰り道、心が少し軽くなっていることに気づきました。
「あれほど抵抗があったのに、不思議ね」由紀子さんは静かに思いました。
「私、まだ必要ないと思いたかったのね」
ブロック解除をしてもらったことで、自分の中の思い込みが少しほどけ、素直に行動できたのかもしれません。

老眼鏡は、年齢の証ではなく、これからも快適に毎日を過ごすための道具なのだと、やっと思えるようになりました。
(公認リサーチャー 阿部桃子)







